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4層クリーム甘さほんのり
ダイヤ(大阪市生野区)が展開するベーカリー「クックハウス」の「ミルクパン」は、カスタードクリームを薄く生地に重ねて焼き上げ、ほんのりと甘く仕上げた菓子パンだ。30年以上にわたって愛される素朴で優しい味わいは、職人たちのこだわりが支えている。(高市由希帆)
シート状
オリジナルのミルクパンづくりが始まったのは1990年頃のことだ。クリームパンのようにカスタードクリームを生地で包むのではなく、クリームを薄く重ねて塗ることで、甘すぎず、柔らかな口当たりを目指した。だが、試行錯誤を重ねても、なかなか納得できる水準には届かなかった。
糸口が見えたのは偶然だった。ある日、普段から付き合いのある食品メーカーから「うちが開発したシート状のクリームを使ってみてもらえないか」と提案されたのだ。生地に薄く折り込めるシートなら、目指すミルクパンが実現できる。大きさも、食べやすい一口サイズに決めた。
では、シートを何層折り込むか。薄いシートだと、ある程度の甘さを出すのに何層も必要となり、焼き上がった時に形が崩れやすい。一方で、1層のクリームの量を多くすると甘さを強く感じ、しっとりとした食感が損なわれてしまう。試作を繰り返し、4層が最も甘さと食感のバランスが良くなることを突き止めた。
高い職人技
発売後も、もっとおいしくしたいと改良を重ねた。
こだわったのが甘さだ。子供のおやつとして購入する人が多いことがわかり、クリームは4層を維持しつつも、量を徐々に増やして甘さを強めた。当初、生地に対して4割だったクリームの量は、今では6割だ。
生地をふっくらと仕上げるのに欠かせない酵母菌もいくつも試した。当初はイースト菌だけだったが、現在は自社で培養した天然酵母の「ルヴァン種」も併用する。しっとりとした柔らかさが長時間続くという。
地道な積み重ねが功を奏し、今や多い日には3000個も売れる不動の一番人気となった。取締役製造部長の仲西功次(58)は「クリームの割合が増えると生地の扱いが難しくなり、きれいな焼き色もつきにくい。だが、職人たちの高い技術によって壁を乗り越えることができた」と振り返る。
生地もこだわり
クックハウスは、食パンから総菜パン、菓子パンまで70種類以上をそろえ、新作パンも毎月3~5種類投入している。それだけに、職人たちが作るパン生地は20種類以上と、一般的なパン屋の2倍に上る。
仲西は「職人たちのこだわりが強く、塩分が0・2%違いの生地も作り分けている。コストはかさむが、みんな譲らない」と笑う。
一方で、デジタル技術も積極的に取り入れ、効率化にも取り組む。その代表例が原材料の発注システムだ。それまで電話とファクスで行っていたが、在庫を多く抱えてしまいがちだった。システムの導入で、仕入れの状況をデータ化して分析できるようになり、コスト削減につながった。
創業者の孫で、執行役員営業部長の多田尚弘(39)は「最初の一口から最後までおいしく感じられるパンを届け、身近な街のパン屋として毎日の食卓に寄り添い続けたい」と力を込める。(敬称略)
<ミルクパン> カスタードクリームとパン生地を4層重ね、一口サイズに包丁で手切りして焼き上げる。子供のおやつとしてだけでなく、朝食としても人気という。本社工場で作られ、毎日、クックハウスの店舗に届けられている。
税込み価格は1個98円。3個入り(292円)と5個入り(422円)もある。
クックハウスで最も売れており、2023年12月は1か月間で約7万6000個を販売したという。
<こんな会社> 和菓子職人だった多田定男がパン職人に転身し、1946年に創業した。戦後の食糧難の中、学校の給食用にパンを作り始め、事業を拡大した。52年に「ダイヤ製パン」として法人化し、71年に現在の社名に変更した。
63年に大阪市北区の地下街「ウメダ地下センター(現ホワイティうめだ)」に出店して以降、店舗網を拡大。現在、大阪市内を中心に「クックハウス」を19店構えるほか、主に百貨店の地下(デパ地下)にサンドイッチ専門店「ダイヤ製パン」を4店展開している。
大阪市生野区の本社=写真=に工場を併設している。工場では幼稚園児や小学生の見学を積極的に受け入れており、小学生向けの副読本にも取り上げられている。
<数字で見る> 資本金は2000万円。社員数は2023年5月時点で82人、パン職人は40人。アルバイトを含めると180人が本社工場に勤務する。